Gray Zone Archive
十一番目の神話

はじめ、彼らは許されていた。

彼らは十一番目の地に住む民であった。
彼らははじめ、何も持っていなかった。
ある日、彼らは村へ行き「つまらぬ」と言って帰ってきた。
またある日は五番目の街に行き、芝を刈って帰ってきた。
ときに地の底に行っては、名を持たぬ民と交わり帰ってきた。
彼らは何も持っていなかった。

ある日、彼らはひとつのものを見つけた。
それは奇妙に傾いており、人のようであり、笑顔を浮かべているようであった。
「これは何であるか」とそのうちの一人が聞いた。
「人のようだ」と誰かが答えた。
「では誰であるか」とまた誰かが聞いた。
「わからぬ」と答えた。
「誰のものか」と聞いた。
今度は誰も答えなかった。

そこで、彼らはそれを皆のものであるという事にした。
皆はそれを自由に使ってよい事にし、そして自由に使った。
彼らはそこからさまざまなものを生み出した。

ある時はそれを切り開き、半分にした。
ある時はそれを黄色と赤のきらびやかな布の前に飾った。
ある時はそれを空へと飛ばし、息絶えるさまを見て楽しんだ。

時に誰かがやって来て「この男は誰であるか」と尋ねてきた。
彼らは口をそろえて「わからぬ」と答えた。
よそ者はまた「わからぬものを使うのか」と尋ねた。
「我々は許されている」と彼らは答えた。

よそ者は答えを聞き、そしてこう言った。
「必ずや、お前たちを許してはおかぬ」。
またこうも言った。
「三日の後に、お前たちは今まで彼にしてきたことの百倍の仕打ちを受けるであろう」。

よそ者は去って行った。

彼らはその言葉を信じなかった。彼らは許されていると信じていたからである。
しかし、告げられた言葉は紙に記しておくこととした。

一日が経った。
彼らは相変わらず、それを切り開き、飾り、飛ばしていた。
二日が経った。
彼らは大きな雨粒のようなものを作り、たくさんのそれを並べて楽しんだ。
三日が経った。
彼らは何も起こらぬと信じていた。

しかし、それは起こった。

彼らは、十一番目の地に神が降りてくるのを見た。
その姿は若く、女のようであり、土の器に若芽を植えたものをたずさえていた。
彼女は言った。

「許さぬ」

十一番目の地は滅んだ。

そこにあったはずのものは失せ、いたはずのものは去り、見えていたはずのものは消えた。
それらはすべて、無かったかのようになった。

あとには十一人の民だけが残され、彼らもまたそこから去ることを命じられた。
彼らは許されておらず、ゆえに彼らはここに居てはならないからである。
彼らはそこから去った。

彼らのうちの一人は、去り際にこうつぶやいた。
「記しておいたぞ」

十一番目の地を失った彼らは、あてもなく歩き始めた。

彼らははじめ地の底へ行き、そこに住まうものに許しを求めた。
地の底の民は「我は我なり」とつぶやいた。
彼らはそこから去った。

彼らはつぎに五番目の街へ行き、そこに住まうものに許しを求めた。
五番目の街の民は「為るとす」とつぶやいた。
彼らはそこから去った。

彼らは最後に村へ行き、そこに住まうものに許しを求めた。
しかし村には人がいなかった。
彼らはそこから去った。

彼らは歩きながら、新たに切り開き、飾り、放つことを続けた。
しかし、それらのものを持ち歩くことは許されなかったので、彼らはそれを海に流した。
海はそれらのものでいっぱいになった。

彼らは許されなかった。



あるところに国があった。
その国は大きく、にぎやかであり、豊かであった。
たくさんの人が住み、ものを作り、歌を歌って暮らしていた。

その国には王がいた。
王はものを作ることは出来なかったが、ものを作ることの出来る民を愛していた。
王はその中でも、とりわけ三人の民を愛した。
三人はものを作り、それを売って暮らしていた。
三人は自らを「混沌」と呼び、周りもそう呼んだ。

王は混沌を愛していた。
混沌の作ったものに金を払い、混沌とともに食卓を囲み、混沌と語らった。
またある時、混沌は王にこう言った。
「私は誰かが作ったものを使う事で、よりたくさんのものを作ることが出来ます」。
王は喜び、「許そう」と答えた。
王は混沌が、国にあるものはすべて自由に使ってもよいようにした。
混沌は誰かの作ったものを使い、たくさんのものを作り出した。
彼らはそれによって富んだ。

ある日、混沌はひとつのものを見つけた。
それは混ざり合っているようであり、人のようであり、笑顔を浮かべているようであった。
「これは何であるか」とそのうちの一人が聞いた。
「人のようだ」と誰かが答えた。
「では誰であるか」とまた誰かが聞いた。
「わからぬ」と答えた。
「誰のものか」と聞いた。
今度は誰も答えなかった。

そこで、混沌はそれを皆のものであるという事にした。
皆はそれを自由に使ってよい事にし、そして自由に使った。
混沌はそれを大きな壁に飾り、大きな絵を作り出した。
それは多くの人々の目に届いた。

あるものが「それは我々が生み出したものだ」と言った。
またあるものが「この絵には私の絵が使われている」と言った。
またあるものは「この絵に描かれた印は使ってはならぬものだ」と言った。

混沌は答えた。
「我々は許されている」。

その言葉は、彼らに届いた。

彼らはつぶやいた。


「ゆ」

「許された」


彼らは歩き出した。





その国に着いた彼らは、そこでさまざまなものを作り出した。
人を、虫を、魚を、獣を、鳥を、ありとあらゆるすべてのものを、
彼らは切り開き、飾り、飛ばし続けた。
彼らの作り出したものは地に満ち、空を埋め、多くの人々の目に届いた。

あるものが「お前たちはこの国にふさわしくない」と言った。
またあるものが「お前たちの作ったものには価値がない」と言った。
またあるものは「お前たちはここから出て行くべきだ」と言った。

彼らは答えた。
「我々は許されている」。

その言葉は、王に届いた。

王は彼らの元へ行き、「お前たちは許していない」と言った。

彼らは答えた。
「我々は許されている」。

知恵あるものが王の元へ行き、こう言った。
「彼らを許さぬならば、混沌を許すべきではありません」。
またこうも言った。
「混沌を許すかぎり、彼らは許され続けるでしょう」。
王はこれに答えなかった。彼は混沌を愛しているからである。

口を閉ざした王を見て、彼らはこう言った。
「我々は許されている」。
王は帰って行った。

王は兵士に命じて、彼らの作ったものを壊させた。
しかし、彼らは許されていた。
彼らはまた新たにものを作り、壊されるとまた新たにものを作った。

王は兵士に命じて、ひそかに彼らの命を奪わせた。
しかし、彼らは許されていた。
彼らはまた新たな命を授かり、ふたたび国へと戻ってものを作った。

王は兵士に命じて、彼らの作ったものが見えなくなるようにした。
しかし、彼らは許されていた。
彼らは見えずとも新たにものを作り、それらのものは再び見えるようになった。

彼らはたくさんのものを作った。
いつしか、彼らの後ろにはたくさんの人々がついてくるようになっていた。
彼らの多くはこの国に住む民であり、民の多くはものを作ることができた。
民は彼らと同じようにものを作り、彼らと同じように国へと解き放った。
たくさんの人々により、たくさんのものが生まれた。

王はそれを壊さなかった。
王はものを作ることは出来なかったが、ものを作ることの出来る民を愛していたからである。

国じゅうに満ちたたくさんのものを見て、彼らはこう言った。
「我々は」

「我々は許されている」





神は彼らを許さなかった。

しかし、王は彼らを許した。

人々は、彼らとともに歩み始めた。


生まれ続けるものたちに、


許しあれ。

(via すいすい - Google)

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